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▼歌集「十二月生まれの山羊座」
さっきから言ってるでしょう 犯人は私ですから私ですから
分からなくてもいいんです それでいい 何となくでもそれでいいです
そんなにも僕は哀れに見えるのか 見られることで惨めになった
そんなにも僕を憐れとしたいのか 憐れとしたら何かくれるか
「あの時がなかったら今こうやって話せてないと思う」「そうだね」
泣く君を追いかけた夜 でも、君は僕が泣くことすらも知らない
目覚めたらここがどこだか分からない そんな事態によく見舞われる
「気にするな」 そう言いながら一番に気にしてるのは自分と気づく
笑うしかないでしょ 他にどうすればいいとあなたは言えるんですか
「意外だな」「意外じゃないわ。ただ単に、私のことを知らないだけよ」
何事もなかったように笑うから私はチョコを一口かじる
幸せになれないことを知ったから代わりに君を幸せにする
幸せになれないことを知ったから代わりに君が幸せになれ
どんな日も夜は必ず明けるけど光が差すかどうかは賭けだ
死にたいと思うことから生きたいとより強くより激しさを増す
矢印が示す向こうに誘われて一分間の致死に興じる
唇を血が滲むほど噛み締めて丸のみにした冷めた現実
目を閉じてあなたに眠る早朝に牛乳ビンを倒す青年
眠ったらそのまま二度と目覚めなくなるようでまだ目を開けたまま
究極の意味で言ったらオリジナルとは現代に存在しない
笑いたくないのに笑う神経を切ったとしてもおそらく笑う
生きるとは息をすることだとしたら僕は充分生きているはず
地上から逃げ出すように飛行機がへたった僕を横切っていく
プルタブを起こす小さな音一つ立てれずぬるくなるソーダ水
この「今」がいつか「無」になる そんな日が明日だったらどうしたらいい?
世の中に正否はないと言うけれど社会は常に正否を作る
引き攣った笑顔を囲むたくさんの友達それは友達ですか?
幸せは他者が判断すべきではないんだ それが歪としても
悪いとかほんと全然思えない 何がどうした私の心
もういっそ胸にナイフを突き刺して「痛い痛い」と泣いてやろうか
こけないと見えないものがあるはずで ここでこけてよかったんだね
切れかけた蛍光灯の下に立つ きっともうすぐ私も消える
若いから、若いからって何もかもこれからできるわけでもなくて
音楽と薄い毛布と文庫本 鍵のない部屋 ドアを背にする
一人だということにただ気づきたくなくて笑った笑ってやった
今日までは笑っています 明日から泣くのでさっと離れるように
「生きたい」とチラシの裏に書きました いくつ書いても忘れてしまう
問題はないけど今日は一人とも会わず話さず終わるようです
笑ったり泣いたりするが幸せはいつも僅かに離れた場所に
「寂しい」と思わされてるだけなんだ 人や社会にしつこく何度も
家中の明かりを一つ一つ消す 患う病みを忘れるように
あんなにも何が面白かったのか分からないけど笑っていたね
一瞬が永遠になる 永遠は一瞬になる なんて なんて ね
感情に任せてここで暴れても片づけるのはどうせ私だ
生きているから死ぬことができるんだ 来たるいつかを慰めてみる
幸せになるためにまず幸せがどういうものか知らなければね
もう誰も傷つけない と爪を切る 短く深く祈りを込めて
どこかにはドラマみたいな現実があって私は見ることもない
バラバラとトタンを叩く雨音が私の胸を撃ち抜いていく
十二月生まれの山羊座 本当にそれは「本当」だと言えんのか