花便り


遠くで暮らす恋人から手紙が届いた
封筒にすっぽりと収まる便箋に書かれていたのは
「桜が咲いていますよ」
一言を句点で締め括っていた
残念ながら部屋の窓から見えないが
公園 川沿い 校庭の側
少し街に出れば春が迎えてくれる

とりあえず僕は
桜を見るためだけに部屋を抜けた
風はまだ仄かに冷たい
公園 川沿い 校庭の側
どの桜も見事に青空に映えている
夜は夜で違う感慨が胸に起こるのだろう

空いているベンチに腰を下ろした
ポケットに入れた手紙を取り出す
辺りでは
レジャーシートで弁当を囲む家族
肩を並べて歩く男女
木の下でピースサインを作るグループ
思い思いに桜を楽しんでいる

桜は美しい
いつ見てもどこで見ても一人で見ても
だけど物足りなさが生じる
こんな気持ちに覚えがある
艶めく紫陽花 香る金木犀 舞い降りた初雪
全部 君が側にいなかった
全部 君と分かち合いたかった

「桜が咲いていますね」
間に合うだろうか
笑わないで聞いてほしいんだ
笑わないから聞かせてほしいんだ