001
この指で
その爪で
塞がり始めた傷を開いた
血が溢れ出した
002
心臓が嫌なリズムを刻んでいる
イヤホンから流れ込む僕を和らげる歌声
塗り潰して
不快感が増殖する
人の存在がこんなに脅かすようになったのは
いつからだろう?
いつからだっていいや
心臓を止めてくれ
生きている証明が僕を苦しめる
003
飛び降りて、体を丸める
飛び出して、足を引く
飛び込んで、這い上がる
イメージの中に潜むイメージ
つまりはそういうことなんでしょう
そういうことなんだよね
そういうことなんだ
004
たとえばここから
僕がいなくなったとして 誰か
探してくれるだろうか
見つけてくれるだろうか
泣いてくれるだろうか
最初からいなかったみたいに
過ごすのだろうか
試してみようか でも
きっと泣くのは僕だけだ
どこにも戻れずに
涙は枯れて
心も枯れて
終わっていくんだ
005
訳も分からず
ただ苦しみから逃れたい一心で
言った言葉を目の前に
あの時とは違う
心情で僕は手に取った
006
生きるってことは
汚れていくことだよ
体の端から
心の端から
醜くなって
見にくくなって
嘘を着込んだのは
仕方がないことだったんだ
007
涙みたいに言葉が溢れてくる
血液みたいに言葉がこぼれてくる
ああ、止められない
008
僕が僕でなかったら
誰が僕になるんだろう
時々分からなくなる
ここが外なのか
ここが部屋なのか
気づいたらベッドの上でうずくまっていた
僕が僕になれなかったら
僕は消えてなくなるだろう
009
四角い箱の中を
いくつもいくつも
ボールが跳ねている
壁と壁を跳ね返り
スピードは増す
目に追えないほど
思考は何一つ掴めず
響く音は痛みにすり替わり
瞼をこじあける
寝かしてくれ
もういいから
もう何もいらないから
心も全部壊していいから
存在も否定していいから
眠ることを許してくれ
赤も黒も消えて
透明になって見えなくなるから
僕を忘れてくれ
生まれたことを
生きたことを
なかったことにしてくれ
そのほうがいいよ
あなたにとっても
僕にとっても
もういいだろう
最後に一つ
今日の世界はどうですか?
010
耐え難く吐き出した感情を
まるで包み紙みたいに
たいした力も入れず
くしゃっと一握りされて
僕は深い絶望に
たいした重みもなしに
くしゃっと一踏みされて
散らかった残骸は染みを作らず
アスファルトは相変わらず乾いていて
僕は、
011
君を止める
強い理由なんて
どこにも見当たらない
背中を押すよ
すぐに僕も行くから
012
僕がいらないことには気づいていた
知らないふりをして
パレードに参加する
滑稽なピエロだ
笑って踊っていれば
みんなが振り向いてくれる
白い顔の雫が大きくなっていくのに
君は気づかないだろう
いいよそのままで
僕はいつの間にか消えるから
013
ひどい言葉も
ガムみたいに
噛んで
噛んで
噛んで
味がなくなるまで
噛んで
吐き出したら
なかったことにできるかな
014
誰もいない教室
ドアを閉めて
ブラインドを下げて
音楽で耳を塞げば
世界から僕だけ切り取られた
ような感覚になった
015
僕が僕だったら
抱きしめて
キスをして
セックスをして
愛で埋もれさせて
君を離したりしないのに
僕は君に
触れることさえできない
016
光が灯れば
迷いなく歩いていけると
信じていた
色んなものが見えた
視界を埋めつくして
以前より僕は
立ち止まることが多くなった
017
誰かが僕を感じなくなったら
僕が世界を感じなくなったら
それはこの世の終わりだよ
018
とても幸せで
どこか切なくて
泣きそうになる
019
どうして君は笑っているの?
どうして君は泣いているの?
それが分からない僕は
君と一生交わることはない
020
呼んだ
君の名前が喉へ帰ってくる
薬みたいに溶けて
体内に広がる
きっと気休めに近い
手が届く先には誰もいない
それでもよかった
021
ここから駆け出したら、
ここから飛び出したら、どこへ行けるのかな?
僕はいつも空に焦がれている
それなのに
真下にある闇は消えてくれなくて
傾く身体は黒く溶けていく
022
どうにもならないことが世界にあって
どうにもできない僕が生きている
僕は何をすればいい?
君に何をすればいい?
神様、
世界はどうなるの
僕はどうなるの
君はどうなるの
023
僕の夢は
写真のように
切り取られて残る
しかしなぜだろう
そのどれにも
僕の姿はなく
誰の笑顔もなく
悲惨さを物語る場面だけが
脳に散らばっている
024
あれは赤だったかな?
青だったかな?
真っ黒だったかな?
記憶の色は曖昧だ
鮮明に思い出せるのは
焼けつくような、感情
025
「こっちだよ」
「こっちじゃないよ」
君は何を信じる?
026
君が好きで
君が嫌いで
僕が好きで
僕が嫌いで
愛が強くなれば
好きと嫌いがイコールで繋がった
027
ここにいれば安全なんだ
誰とも出会わない
傷つけられることもない
攻撃しなくてもいい
膝を抱えて
身を縮めなくてもいい
両手を広げて寝転んでいられる
何かあっても大丈夫さ
犯人は分かっているよ
僕は僕に罰を与える
028
この夢が
この恋が
この愛が
この情が
幸せに繋がるとは到底思えなかった
だけど 叶えたかった
029
正しいか
間違いか
実際差して重要じゃないんだ
彼か
僕か
君は天秤にかける
分かっている
不正解は僕だ
030
無口が気に入らないと昨日君は言った
笑顔が気に入らないと今日君は言った
明日は何?
明日はどこを削るんだい?
031
男じゃないよ
女じゃないよ
人間じゃないよ
私は 私だよ
032
何のために寝るんだ?
誰のために起きるんだ?
何のために笑うんだ?
誰のために泣くんだ?
何のために
誰のために
僕は生きるんだ?
033
痕をつけてよ
痛く酷く
濃く深く
ためらわないで
もっと強くお願い
言葉なんていらないから
そうやって私を愛して頂戴
034
一つ手に取ったら
一つこぼれた
それを拾おうとしたら
全部こぼれた
僕には何もなくなった
また始めからやり直し
035
どうしても欲しかったはずなのに
ある地点まで来た途端
影も形もなくなった
私は考える
なぜそれが欲しかったのか
生活に必要だった
とても好んでいた
それを好む人を好んでいた
他にもいくつか挙げてみた
どれもこれもぱっとしない
それは私にとってどんな意味があったのだろう?
この手にあるものが急に転がり落ちた
私は拾わなかった
拾えなかった
036
僕の傷を見せてあげる
君に舐めてほしいな
真新しいから
きっと血が滲む
舌で味を確かめてね
そう上手
尖らせて
抉るように
深さもちゃんと知って
どんな味がする?
僕の感覚はすべて麻痺したから
よく分からないんだ
甘い?
苦い?
酸っぱい?
辛い?
美味しい?
もっとあげる
底をつくまで飲み干してよ
血管を巡って
君の心臓に辿り着けば
嘘偽りなく
二人はずっと一緒だ
037
笑わなくてもいいですか?
泣いてもいいですか?
楽しめなくてもいいですか?
辛いと思っていいですか?
僕は
生きてもいいですか?
038
私は人間が怖い
幽霊も
妖怪も
悪魔も
恐竜も
宇宙人も
見たことがないから
それほど怖くない
人間は
見えるのに見えないんだ
039
何かを伝えたくて
何かを伝えようとして
君は 僕は 人は
ここに立っている
言葉にできなくて
言葉にならなくて
君は 僕は 人は
空を見上げる
040
このちょっと
むず痒いような
くすぐったいような
感じ
何と言ったらいいのやら
041
この心が
何も感じなかったらいい
傷つくことも
傷つけることも
この心が
何も覚えなかったらいい
愛することも
愛されることも
もう何も
もう何もかも
痛みに繋がっていくんだ
042
口が喋っている
言葉に僕の意思があるのかは定かでない
風に吹かれる薄い紙のように
ぺらぺらと唇が動く
視界がだんだんと白くなって
瞳は何も捉えなくなった
目の前にいるのは誰だろう
君がいたような気がする
切り裂いてはいないだろうか
泣いてはいないだろうか
口は喋り続けている
043
時が
ずしんと
降り積もる
頭に
肩に
背中に
心に
ずしん
ずしんと
かかり
払い
またかかり
また払い
いくつ手があっても
追いつかない
時が
ずしんと
降り積もる
今も
絶え間なく
僕を
押し潰して
僕は
もう
疲れてしまったよ
044
それさあ
本当に悪いと思っている?
子供を言い訳にするのは
君がまだ
まだまだ子供だって証拠だよ
045
真っ白じゃ駄目だ
真っ黒にするんだ
染められる色は意味がない
心の中を隙間なく黒にする
書き殴るように
繰り返し繰り返し
行ったり来たりして
詰めて詰めて
何も見えなくなろう
何も感じなくなろう
やがて時は過ぎる
046
心ない言葉に満足ですか?
貼りつけた笑顔は楽しいですか?
僕じゃない僕が好きですか?
君は何を望みましたか?
047
ヘラヘラ
ケラケラ
カラカラ
シラシラ
これは誰の笑い声?
全部 僕です
あなたにあげます
048
忘れないで 僕を
消さないで 思い出を
見失わないで 未来を
049
このままじゃ終われない
たとえ小さくても
踏みつけて
叩きつけて
幾重にも重ねて
深く
色濃く
世界に足跡を残すんだ
ここはまだ終わりじゃない